相続・遺言

 
 相続に関する問題は,近年,益々増加の傾向にあります。

 それもそのはずで,相続においては,法的な問題と税務の問題が煩雑に絡み合っており,専門的な知識を要するケースが非常に多いのです。後述する葬儀費用の問題などは,いまだに最高裁判例がでておらず,相反する裁判例が存在している状況ですし,遺言の有効性などについては,法廷で有力な証拠が出ずに長期間にわたる大掛かりな訴訟となるケースが散見されます。相続税の基礎控除額の引き下げについても,記憶に新しいところです。
 加えて,相続トラブルは,紛争の相手方が身内であることが多いために,精神的な負担も顕著です。長年未解決の相続問題に苦しんでおられる方もいらっしゃいます。
 かといって,遺産分割を後回しにして,いつまでも放っておいてしまうと,のちのち遺産分割をする際,相続人の数が当時より増えてしまい,まとまる話もまとまらないようなことになるおそれもあります。

 
宇治法律事務所では,このような相続に関する問題を多数扱っております。
 また,のちの紛争を予防するための遺言書の作成等についても,豊富なノウハウを有しておりますので,相続トラブルにお悩みの方は,ご相談ください。依頼者の方の精神的な負担を軽減するとともに,相続問題の最善の解決策を提案いたします。



相続問題の類型

 相続問題においては,当然のことですが,被相続人の方(相続人に相続される対象となる方)がご存命がどうかでできることが大きく変わります。遺言書の作成や税務上の対策などを講じ,残される者に紛争や税務上の負担が生じないよう,多様な対策を講じることができます。

 一方,お亡くなりになってしまった後では,遡って対策を講じることはできませんので,現状を遺産分割手続等によって解決してくことになります。この場合,遺言書があるかどうかで全く手続きが異なります。以下のフローチャートをご参考にしてください。
*フローチャート内で下線が引かれた項目をクリックすると,それぞれの項目にとびます。

被相続人の死亡後
 → 遺言書がない場合
  →
 民法の規定に従った遺産分割手続
     話合い,調停・審判の手続の進み方
     法定相続分
     不動産などに関する遺産分割の方法
     特別受益・寄与分について
     葬儀費用を相続財産に含むか
     相続放棄について

 → 遺言書がある場合
  →
 遺言書に従った執行手続
     遺留分減殺請求
     遺留分減殺請求と特別受益
     遺言無効確認訴訟
     遺言執行者

被相続人の死亡前
 →
 遺言書の作成
     遺言書の種類
     遺言が無効と判断されるケース
     紛争を予防するための遺言書作成

 
 相続に関する税金を抑えるための措置
    

民法の規定に従った遺産分割手続

手続きの進み方
1.相続人・相続財産の確定
 遺言がない場合には,まず第一に,相続人の確定作業を行う必要があります。関連する戸籍謄本をすべて取り寄せたうえで,民法の規定に従った相続人の確定を行います(法定相続人については,次項に詳細があります)。
 続いて,預貯金・不動産・株式などの,被相続人が残した相続財産(遺産)について,可能な限り調べることとなります。

2.遺産分割の話合い
 通常,すぐに調停を申し立てることはせず,依頼者の方を代理して,他の相続人と協議を行います。
そして,この段階で話し合いがまとまれば,遺産分割協議書ないし遺産分割協議証明書を作成し遺産分割手続は成立します。預貯金の引き出しや,不動産の名義変更を行えることとなります。

3.遺産分割調停・審判
 任意での話合いがまとまらない場合には,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に,調停の申立てを行い,第三者を間に挟んだ話合いを行うことになります。調停でもまとまらない場合には審判へと移行し,裁判所の判断をあおぐことになります。
調停・審判がまとまった場合には,調停調書等によって,預貯金の引き出しや登記変更を行うことが可能となります。

法定相続分
 民法規定の法定相続分を示した表は,以下のとおりです。なお,相続人全員の合意があれば,これと異なる割合で分割することももちろん可能です。

*色つきの部分は,亡くなった時点でおられないことを示しています。
*数字は法定相続分の割合,カッコ内の数字は,遺留分の割合です。
*孫に相続が行くのは,その孫の親であり相続人である子が亡くなっているときのみです。これを代襲相続といいます。親についても同じです。
*兄弟姉妹の代襲相続は,甥・姪にまでしかいかず,その子供には相続権がいきません。


配偶者  子供,孫等,直系卑属  両親等,直系尊属 兄弟,甥,姪まで 
   1(1/2)
 もらえず もらえず 
     1(1/3)  もらえず
       1(なし)
 1/2(1/4)  1/2(1/4)  もらえず  もらえず
2/3(1/3)     1/3(1/6)  もらえず
 3/4(3/8)     1/4(なし)
 1      
不動産,預貯金などに関する遺産分割の方法
1.不動産について

 相続財産の中に不動産がある場合,事案が複雑になってしまうケースが比較的多いようです。
現金・預貯金等の流動資産が少ないにもかかわらず不動産があるような場合には,共有名義のままにしておくわけにいかなければ,なおさらでしょう。
 不動産には,「公示価格」「基準地価格」「路線価」「固定資産税評価額」の4つの価格算定方法があり,上記二つと,路線価,固定資産税評価額とが通常異なる価格であることも,その原因の一つとなっています(それぞれの評価方法については,後日ニュースにて詳細を追記いたします)。

2.遺産分割の方法

 
問題となる場合が多いです。審判に移行した場合,3つの遺産分割の具体的方法が定められていますので,以下に記します。

イ 現物分割
 例えば,一つの土地を分筆するなどの方法により(分筆は分割の必須要件ではありませんが),物理的に分ける方法です。複数の土地があれば,各相続人が単独所有し,過不足を金銭で調整するなどの方法をとります。

ロ 代償分割
 共同相続人の一人または一部が,不動産等を取得する代わりに,他の相続人に金銭を支払うなど債務を負担する,という方法です。実務上は,使われるケースが多いですが,のちの売却を予定しているような場合には,税務上,後述する換価分割の方が有利になるケースがあります。

ハ 換価分割
 売却するなど,金銭への換価をしたのち,その金銭を分割する方法です。合意がどうしてもできない場合に有効ですが,売却の際に譲渡所得税が課税されることに注意が必要です。居住用不動産の場合,譲渡の特例を使うことができる相続人は,課税上有利です。

 (遺産分割方法と税務の詳細については,後日ニュースにて記載いたします。)


3.預貯金の遺産分割

 法律上の考え方では,被相続人が死亡すると同時に,その相続財産(遺産)は相続人が共有することとなります。そして,預貯金のように分割して考えることができる可分債権は,遺産分割手続をすることなく,相続人が相続分に応じて権利を取得することとなります。
 とすると,相続人は,各金融機関に対して単独で相続分に応じた預貯金の払い戻しを請求できることとなります。実際には,金融機関は,遺産分割協議書等ができあがるまで預貯金の払い戻しに応じることを拒みがちですが,法律上の考え方としてはこのようになっています。

 これがやっかいなことになるのは,遺産分割調停をする必要があるのだけれども,相続財産が預貯金しか判明していないような場合です。現在,多くの家庭裁判所においては,預貯金だけの遺産分割調停の申立てを受け付けていません(相続人全員の同意があれば別ですが,同意がとれない場合もあります)。それは,先ほど述べた,預貯金は各相続人にすでに帰属しており,遺産分割を行う必要がないという発想に基づいています。
 この場合は,株式や,動産類などがあればそれを調べたうえで財産目録に記載し,預貯金と併せて調停を申し立てる必要があります。

特別受益・寄与分について
 特別受益とは,共同相続人の中に,被相続人から遺贈や贈与を受けたものがある場合に,他の相続人との均衡性を保つために,相続財産の中にその贈与等を受けた分を合わせたものを相続財産をみなして,その分を控除して相続分を算定する,というものです(特別受益の持ち戻しといいます)。少しわかりにくいですが,例えば,相続人の一人だけ,被相続人の生前に100万円をもらっており,他の人がもらっていないとすると,それは不公平なので,その100万円を相続財産の中に戻したものとみなして,公平に分配しなおす,という発想です。
 紛争が激化した場合,主張されることが非常に多いものですが,実務上は,社会通念上遺産の前渡しとまではいいがたい価格の贈与は特別受益にはあたらないとされています。

 寄与分とは,逆に,生前に相続人の一部が被相続人に特別の寄与をし,被相続人の財産の維持・増加が認められた場合に,その分をその相続人の持ち分に加える,というものです。
 これは,特に被相続人の介護などを行っていた場合に,主張されることが非常に多いです。ただ,親族には民法上,親族間の扶養義務が定められていますので,その通常の扶養義務による寄与の程度をはるかに超えるほどの特別な寄与があったことを,主張・立証していく必要があります。


葬儀費用を相続財産に含むか
 葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と裁判例で定義づけられています。
 さて,これを誰が負担するか,ですが,一般的な考え方ですと,相続財産から差し引いて残りを相続人で分配するのではないのか,相続財産よりも多額であれば,相続人が持ち分の割合に応じて負担するのではないのか,と,このように考えがちです。
 しかし,これは法律上,一つの考え方に過ぎず,しかも少数派です。
 
 
有力な考え方は,祭儀を主宰した者,すなわち,葬式についてはその準備をして手配を行ったものが,埋葬については,位牌や遺骨を受け継ぐ祭祀承継者が負担するものとする考え方です。
 これについても,先ほどの法律的な相続についての大原則の考え方,つまり,相続財産というものは,被相続人が亡くなった瞬間に遺産分割を経ずして各相続人の共有となって帰属しているという考え方に帰属しています(名古屋高裁平成24年3月29日判決)。
 つまり,葬儀費用は,亡くなった後に契約なりして支出したお金なのだから,遺産分割とは関係がないです,ということなのです(逆に,香典については被相続人の死亡後に喪主に対して渡されるものなので,相続とは無関係に受け取れるということになります)。
 もっとも,これについては最高裁判例はでておらず,相反する裁判例もありますので,対立説を主張する余地はあるといえます。

相続放棄について
 中には,被相続人の方が借金を残して亡くなる場合があります。債務についても,相続人は被相続人が亡くなった瞬間に相続をしていることとなりますので,何もしなければ債権者が取り立ててくることとなります。
 これを避けるためにあるのが,相続放棄です。
ポイントは5つあります。

 一つ目は,相続放棄は,家庭裁判所にしなければ効果がない,ということです。単に,放棄した,と言っているだけでは無意味で,債権者は当然のように請求してきます。

 二つ目は,相続放棄ができる期間です。これは,基本的に自己のために相続があったことを知った時(多くは,被相続人の死亡を知った時ですが,子供の相続放棄によって順位が繰り上がり,兄弟姉妹が相続することになったときは,相続放棄があったことを知った時,となります)から3ヶ月以内です。借金があとから判明したようなときには,その期間を超えての手続が認められる場合もありますが,訴訟になる可能性もあります。
 また,相続放棄の期間を延長するよう,裁判所に申立てすることもできますが,この手続にある程度時間がかかりますので,3ヶ月が経過する直前に行うと,申立てが認められなかった場合に相続放棄ができないという最悪の事態になりかねません。

 三つ目は,法定単純承認をしないことです。相続財産の売却や,取り壊しなどをした場合には法定単純承認行為があったとして,もはや相続放棄ができなくなります。被相続人の借金の返済などについては,原則,保存行為なので大丈夫ですが,中には法定単純承認行為であったとする裁判例もありますので,行わないのが無難でしょう。

 四つ目は,相続放棄が終わった後,裁判所より入手できる相続放棄受理証明書の写しを,各債権者に交付しておくことです。これをしておかないと,債権者は相続放棄があったことがわかりません。

 五つ目は,財産の一部だけの相続放棄することはできない,という点です。近年,空き家問題などが相次ぎ,相続しても負担になるだけの空き家を放棄したいと考える人もいますが,空き家を放棄する場合,他の預貯金等についても相続放棄をせざるを得ないことになります。

遺言書に従った執行手続

 被相続人によって遺言が作成されているときは,その遺言に従った内容で,遺言の執行手続を行います。相続人全員の同意がある場合には,遺言と異なった内容の遺産分割も可能ですが,レアケースです。また,複数の遺言がある場合には,その内容が抵触している限りで,最新の遺言が有効となります。

 自筆証書遺言が見つかった場合には,まず,家庭裁判所において「検認」という手続きを経る必要があります。検認とは,遺言書の形状などの状態,内容を裁判所において確認し,遺言書の偽造や変造を防止するための手続きです。検認を経ないで,遺言の執行や開封をすると,5万円以下の過料に処せられるおそれがありますので,ご留意ください。


遺留分減殺請求
 本来,被相続人の遺志は極力忠実に再現されるべきですが,日本の民法ではそれが制限されています。遺言がなかったとしたら相続を受けることができたはずの法定相続人に対し,最低限の相続持ち分を保障した制度で,この最低限の持ち分のことを「遺留分」といいます。そして,遺留分を侵害された法定相続人が行使する権利のことを「遺留分減殺請求権」といいます。
 各法定相続人に認められる遺留分については,こちらの法定相続分の欄のかっこ書きの中に記載していますので,参照してください。

 遺留分減殺請求権を行使するうえで,もっとも気を付けなければいけない点が,時効です。
 民法は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から1年,相続開始の時から10年を消滅時効期間(後者は除斥期間という見解が一般的です)とすると規定しています(民法1042条)。
 
1年の時効期間は短いですが,その間に訴訟提起までする必要はありません。遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が一方的な意思表示をすることで遺贈又は贈与の効果を無効にすることができる権利,すなわち形成権ですので,内容証明郵便の送付で足りると解されています。そして,一度,遺留分減殺請求権を行使してしまえば,不当利得返還請求権という別個の債権になりますので,時効期間は10年に延びます。
 宇治法律事務所では,内容証明郵便の送付のみの依頼も低額でお受けしておりますので,お気軽にご相談ください。

遺留分減殺請求と特別受益
 特別受益とは,先ほど特別受益の項目で述べたとおり,被相続人から遺贈や贈与を受けたものから,他の相続人との均衡性を保つために,相続財産への持ち戻しを行う,というものです。遺贈の場合も含まれていますので,遺言がある場合でも,相続財産の一部の遺贈のみ書かれているような遺言では特別受益が問題となります。そして,遺贈などの内容が他の法定相続人の遺留分を侵害しているような場合には,法定相続人は,特別受益者に対して遺留分減殺請求権を行使することとなります。
 また,被相続人が事前に持戻免除の意思を表明していた場合でも,遺留分の算定の基礎とするかどうかについては,見解が分かれています。

遺言無効確認訴訟
 遺言がある場合の紛争で,遺留分減殺請求と並んで多いのが,遺言の無効確認訴訟です。遺言には,後述するとおり,主だったものに自筆証書遺言と公正証書遺言の二種類があります。一般的に,公証人役場で作成した公正証書遺言であればまず無効にならないのではないか,と思いがちなのですが,それは大きな間違いで,公正証書遺言でも裁判所に無効と判断されたケースは数多くあります。特に,方式不備による無効は,自筆証書遺言よりも場合によっては厄介です。

 遺言が無効となる典型的な三つのケースがあります。
イ 別人が作成したものである場合 
ロ 遺言を作成した当時,被相続人に遺言能力がなかった場合 
ハ 遺言の形式的要件を満たしていなかった場合,の三つです。

 遺言の無効を争う場合は,地方裁判所に訴訟提起をする必要があります。訴訟において争われることとなりますので,勝訴するには,経験の豊富な弁護士に委任することが非常に重要となります。
 詳細については,こちらの遺言書の作成の項目を参照してください。


遺言執行者
 遺言の執行をするに際し,遺言執行者を選任することができます。遺言については,遺贈による不動産の名義変更,預貯金の解約や株式の名義変更,認知,その他にも様々な手続きを行う必要がある場合があり,そのような場合に遺言執行者を選任して,遺言の実現を依頼することができます。
 宇治法律事務所においては,被相続人のご依頼により,遺言執行者の業務も行っておりますので,ご相談ください。


遺言書の作成

 遺言は,被相続人の遺志を反映して遺産を分けることができる,唯一の手段です。いくら口頭で誰々に財産を残したい,と言っていたとしても,遺言書にしたためない限り,効力が発生することはありません。遺志の忠実な反映とともに,のちの相続人間の紛争を予防する,という意味でも,遺言は大きな効果があります。また,遺言は何度も書き直しができ,相反する内容があった場合には最新の遺言が有効となりますので,暫定的な内容でも記載しておいた方がよいといえます。
 一方で,遺言は要件を満たさないなどして,無効になりがちなものでもあります。せっかくの遺言も,無効あるいは無効になる可能性のあるものを作成してしまえば,紛争の種を増やすだけ,ということになりかねません。それゆえ,作成した後でも,一度は,専門家に確認をとるなどしておいたほうが無難でしょう。

遺言書の種類
      遺言  一般方式遺言 自筆証書遺言
公正証書遺言
秘密証書遺言
  特別方式遺言  危急時遺言
 伝染病隔離者の遺言
 在船者の遺言
 船舶遭難者遺言
 遺言には,上記の7つの種類があります。下4つについては,特別方式遺言といい,使える場合が限定されている遺言ですので,個別の説明はニュースにて後日させて頂きます。

1.自筆証書遺言
 
 自筆証書遺言は,公証人や証人などの必要なく,一人で作成できる唯一の遺言です。
 自筆証書遺言は,何と言ってもその手軽さと,費用の小ささ(自分で作成するだけであれば無料です)が最大のメリットです。しかし,逆に,形式不備によって無効となる可能性があること,家庭裁判所に検認を求める必要があること,保管方法に窮する場合があることなどがデメリットです。

 以下に,自筆証書遺言で絶対に守らなければならない(守らないと無効と判断されてしまう)形式的要件を列挙いたします。

全文を自筆で書く。ワープロ等は使用しない。
 視力や手の震えが原因で,単独で記載できない場合に,添え手をした上での記載が許される場合があります。しかし,訴訟での微妙な判断になることが予想されるので,そのような場合は,必ず事前に専門家に相談してください。
遺言書を記載した日付を,遺言書の中に記載する。
署名・押印(必ずしも実印でなくてもいいが,実印の方が無難)を遺言書の中で行う。

 また,遺言書の中で書き間違いなどしてしまった場合,訂正をすることが可能ですが,訂正の要件は上記要件より複雑なものであるため,この訂正によって遺言が要件を満たさなくなり,無効となるリスクは相当あります。
 
遺言書の中で書き間違いをしてしまった場合には,その遺言書は厳重に破棄し,新たに遺言書を書き直す方が無難です。紛争の予防のためにも,この方法をとることをお勧めします。

2.公正証書遺言
 
 公正証書遺言とは,公証人の関与のもと,公正証書として作成される遺言のことです。公証人の関与のもとで行われるので,自筆証書遺言で署名をし忘れるといった類の簡易なミスがないこと,原本を公証人役場に保管できることが最大のメリットです。また,本人確認書類を公証人役場等に持参する必要がありますので,人違いが起きる可能性もまずありません。
 しかし,遺言が無効と判断されるケースには,下記で述べるとおり三つの種類があり,そのうち,ロの遺言能力がなかったことによる無効についてまで,公正証書遺言は必ずしも保障するものではありません。加えて,中にはハの要件で無効と判断されるケースも存在します。
 近年,公正証書遺言が無効であるとする裁判例が多く出されていることには注意を払う必要があります。
 公正証書遺言の方式は下記のとおりです。公証人の関与のもとで行われますが,方式不備として無効と判断されるケースもあります。

証人二人が立ち会う。
遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授かそれに代わる手続をする。】★この要件は争いになりがち
公証人が口授を筆記し,遺言書と証人に対して読み聞かせ又は閲覧させる。
遺言者及び証人が,筆記の正確なことを承認した後,各自署名・押印する。
公証人が,その証書が以上の方式に従って作ったものである旨を付記して署名・押印する。

3.秘密証書遺言
 
 秘密証書遺言は,上記二つに比べると作成される機会が少ないものです。
 公正証書遺言が,公証人や証人に遺言の内容が明らかになってしまうことに鑑み,それを避けるために,下記の方式に従って作成される遺言です。なお,秘密証書遺言は,下記要件は必ずしも自筆でなくてもいいですが,万が一秘密証書遺言としての要件を具備していなかった時のために,自筆で書いておくことが無難と言えるでしょう。

遺言者が,遺言書(必ずしも自筆でなくてもいい)に署名・押印する。
遺言者が,当遺言書を封じ,遺言書に使用した印章で封印する。
遺言者が,公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出し,事故の遺言書である旨と自己の氏名および住所を申述する。
その遺言書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後,公証人,遺言者,証人が署名・押印する。

遺言が無効と判断されるケース 
 遺言が無効となる典型的な三つのケースがあります。

イ 別人が作成したものである場合 
ロ 遺言を作成した当時,被相続人に遺言能力がなかった場合 
ハ 自筆証書遺言において,遺言の形式的要件を満たしていなかった場合


 このうち,イ・ロ・ハが自筆証書遺言において問題となりうる類型,ロ・ハが公正証書遺言において問題となりうる類型です。
 一般に遺言が無効となりがたいと考えられがちな公正証書遺言ですが,近年では,無効と判断される裁判例が多くあります。公証人が,遺言者の遺言能力に疑問を抱かざるを得ないような場合でも,公正証書の作成に踏み切ってしまうというのは,往々にしてあるケースです。また,ハの要件についての無効は,自筆証書遺言においては,十分な注意を払うことさえすれば無効になることを阻止できるのに対し,公正証書遺言では,単に注意を払うだけでは無効となることを阻止することができず,場合によってはより厄介です。参考に以下の裁判例を挙げておきます。


・広島地裁呉支部平成元年8月31日判決 証人2名が公証人及び遺言者から7メートル離れたところにいて,遺言者の口授の内容を聞き取ることができなかったとして,公正証書遺言が無効とされた事件
・東京地判平成20年11月13日判決
公正証書遺言について,遺言書作成当時に入院中であった遺言者に対し公証人が読み聞かせを行い,遺言者が手を握り返すなどの反応を示していた事案(本来は,遺言者の口授かそれに代わる手続きが必要)において,遺言能力もなく,口授の要件も満たさないために遺言が無効とされた事件


紛争を予防するための遺言書作成
 今まで,遺言について縷々述べてきました。また,公正証書遺言が無効になるケースなどもあげてきました。当然のことですが,公正証書遺言が有効な遺言作成方法であるのは間違いないことです。ただ,問題なのは,公正証書遺言で遺言を作成したから,もうすべて安心だ,遺言が無効となることはないと過信してしまうことでしょう。
 
のちの相続人のため,紛争を予防するために遺言書を作成するのですから,万全の準備をし,紛争が生じないように手を打っておくことが重要です。場合によっては,ビデオ撮影などが必要となるケースもあるでしょう。
 当宇治法律事務所では,遺言が無効と判断される際の判断基準に基づき,極力紛争を予防するための手続を提案しております。
 遺言の作成をご検討の方は,お気軽にご相談ください。


相続に関する税金を抑えるための措置